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「本物のプラス思考は究極のマイナス思考から」 (24章)
『他力 TARIKI~大乱世を生きる一〇〇のヒント』は全体を100の章で構成されており、上の引用はそのなかの24番目の章の表題です、この本のメッセージ全体を一番端的に現しているフレーズだと思い取り上げてみました。
そもそも「他力」とは他力本願という言葉で知られる日本仏教の浄土宗、浄土真宗の教えの中にみられる根本思想です。その内容については本文で詳しく述べられていますが簡単に説明すると、一般的に言われている無責任な他人まかせという意味ではなく、この世には個人の意思を超えた目に見えない大きな力が存在し、そこに御仏による全ての苦しむ人間を救おうとする意思(本願)が絶えず働いているという思想です。その他力本願の思想に基づいて、ただひたすら念仏すれば誰でも極楽浄土に導かれ救われるという信仰は、数百年前の生きることが今よりもずっと過酷だった時代の名も無き大衆に瞬く間に受け入れられました。以来、現在に至るまでその信仰は脈々と受け継がれてきました。
五木さんはその他力本願の思想に自ら帰依しながらも仏教思想の枠にとどまらず、他力の力を宇宙全体をつかさどる見えない大きな力として捉えています。他力をあらゆる宗教や信仰の有無を超えた普遍的作用として捉えることで、数百年前に成立した古い宗教論を、現代の複雑混迷化する社会や深刻化する心の荒廃などに光をあてる新しい理論として著しています。この『他力』という本はコテコテの宗教本ではなく、これからの時代を生きるための指標となる多くのメッセージが記された本です。(以下、つづく)
「二十一世紀は大乱世、人心荒廃の大転換期」 (58章)
この『他力』において取り上げられている分野は非常に多岐にわたり捉えどころが無いほどです。法然上人により確立され、親鸞聖人が深め、蓮如上人により広められた他力本願の仏教思想としての一面から始まり、古くはお釈迦様が人生の根本と説かれた「生老病死」と医療、健康の問題、そこから死生観も含めた人生の生きる意味、他力を通して初めて見えてくる真の意味でのアイデンティティーを考えることが説かれています。さらにそこから現在のグローバル化による市場原理主義や自己責任論の台頭、自殺者の増加や青少年による殺人の増加など社会全体の歪に対しても言及されています。
そういった個人の心の葛藤から時代を通した社会全体の歪みに至るまで、他力という大きな視点に立つことでそれらが一貫した問題として浮かび上がってきます。そういった複雑な問題を、時代の趨勢や文化の変遷といった高度な次元で論じる一方で、一人一人の人間の心の在り方においては右肩上りの成長発展だけの価値観が長い間まかり通り、そのために人間の本来自然に持っている情緒や特に悲しみや悩みなどの負の感情が一方的に切り捨てられ続けた結果、現代の荒みきった社会を生んだと述べられています。そういった人間性が荒廃した社会の有様を五木さんは「魂の焦土」「心の内戦」と表現しています。
この『他力』という本が出版されたのはもう12年も前のことですが、述べられている内容は決して過去の問題ではなく、今まさに混乱と矛盾のさなかにある現在の社会に対して問いかけられているものばかりです。五木さんは当時から、21世紀の社会が多くの人達にとって困難な状態になることを見定めて多くのメッセージを伝えようとしたのだと思います。
「深く悲しむ人ほど強く歓ぶことができる」 (37章)
「強く悩み迷うことから本当の確信が生まれる」 (38章)
明治の近代化から戦争をはさんで経済成長一辺倒の現代まで、発展成長の邪魔になるとして切り捨てられてきた人間が自然に抱く負の感情を、五木さんはむしろ反対に人間本来の心を回復するために必要不可欠で大切なものであると説いています。さらに人間の負の感情や弱さ、悩むこと迷うことを切り離してそれらから目を背けることが、本当の意味でプラス志向の前向きな生き方ではないと述べられています。反対に苦しみや悲しみ、ときに絶望することまでもありのまま受け入れて、マイナスのどん底を直視することから始めることしか本当の意味での希望もプラス志向も得られないと五木さんは繰り返し述べられています。
これまで五木さんの『他力』を読むまでは、自分にとって望ましいことだけに目を向けて生きることが前向きでプラス志向な生き方であるかのように思ってきましたが、そういう生き方はマイナスの事実を受け入れることができないという意味では最もマイナス志向な生き方ではないかと思うようになりました。五木さんが述べる考え方は、人生が順調に運んでいて憂いの全く無いような人達にとっては重苦しく辛気臭い話にしか聞こえないかもしれません。その一方で、この混乱した時代にかつて経験したことがないような困難な壁にぶつかり不安や恐れと今まさに格闘している人達にとっては希望を見出すための大きな力になる考え方だと思います。
「人の悲しみを大事にすること」 (100章)
上のような表題の章で『他力』は締めくくられています。これからの困難な時代をどのようにして乗り越えていくかということに対して、この『他力』には具体的な方法論は述べられていませんが確かな方向性は記されています。まずは受け入れがたい現実を直視する勇気と覚悟を持つこと、それすら適わないときにも「他力」という人智を超えた大きな力が確かに存在しその中に救いがあることを信じることで何とか人間は踏みとどまることが出来るということ、そして自らの苦しみや悲しみを通して他者の同じ苦しみや悲しみに共感することで人と人の心の繋がりを回復し、そこから少しづつでも確実に希望を見出すことができるということです。
このほかにも五木さんの深い考察とやさしい感性による心に沁みるようなメッセージがたくさん含まれています。『他力』は、今現在の混乱した社会や先行きの見えない将来に対して一人一人がどう向き合って生きていくかを見定める基準点となる本だと思います。これまで書いてきたぼくの拙い文章のなかでも何か心に留まるものを感じていただけたら是非とも手にとって読んでほしい一冊です。
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発病から10年以上経ちましたがようやく沈静化へ向かいつつある今日この頃。同時に人生の在り方を模索し続け小説という創作物に結晶化することを日々の生業とする。写真撮影は豊かな創造性とニュアンスの源泉です。
写真撮影の友:PENTAX K10Dと愉快なオールドレンズたち。
コンパクトはRICOH GX-8、R10、ケータイカメラCA006
フィルムカメラはPENTAX SPF、RICOH R1s、GR1s
「目指す場所があるからいつだって頑張れる!」