北海道の鉄道とか写真の話題など、、、日々の徒然を独り言のように細々と発信してみるブログ。小説作品執筆中。
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今日は札幌の中島公園にある道立文学館でやっている三浦綾子さんの没後10年の特別企画展を見にいってきました。地下鉄を降りて公園に出ると、ちょうど北海道マラソンの開催日と重なったため公園内は選手や関係者でごった返していました。その人ごみを掻き分けながら文学館へたどり着き、企画展+常設展見学料800円(企画展のみ600円)を払って入場しました。
ご存知のとおり三浦綾子さんは旭川出身の北海道を代表する作家の一人で、懸賞小説で「氷点」が入選して作家デビュー、以後「塩狩峠」や「泥流地帯」など多彩な作品を数多く残されました。キリスト教徒の綾子さんの作品は、一貫して聖書の教える人間観に基づいたテーマで書かれているのが特徴です。ぼくもこれまでに「氷点」や「泥流地帯」、「塩狩峠」、「羊が丘」、「天北原野」など多数の小説と「道ありき」などの自伝的小説やエッセイ集を読み、綾子さんの作品から多くのことを学びました。
三浦綾子さんの作品を読む前はタイトルが何となく重々しく感じられ、聖書の教えや原罪などに基づく作品ということで、小難しくて説教くさい古い小説という先入観を失礼ながら抱いていたのですが、読んでみると文章は平易で読みやすく、内容は解りやすい中にも人間の存在の根本にあるものまで描写した骨太なものでした。そして、どの作品に登場する人物も非常にリアリティがあって現代の目で見ても全く古さを感じさせません、綾子さんの作品が今も世代を超えて読み継がれている理由はその人物描写の色あせない新鮮さにあると思います。
企画展では、これまでに出版された本の展示や「氷点」や「塩狩峠」などの代表作の資料などが主だったもので、夫の光世氏による病身の綾子さんを思いやった短歌の実筆も拝見することができました。すでにお読みになった方ならご存知だと思いますが、「氷点」の主要登場人物の啓造、夏枝、陽子、村井の直筆設定ノートが展示されていて、個人的にはかなり注目していました。簡単にまとめると、殺人犯の娘であるという出生の秘密を持つ主人公の陽子、その陽子を幼い時に出生の秘密を隠したまま養子にした医師の啓造、その妻である奔放な性格で自己に執着する夏枝、優秀な眼科医で女好き、かつ冷酷な村井~といった感じで、各人物の人となりが深層心理まで含めて細かく設定されており、原作を読んだうえで対比すると、あの濃厚な人物関係と劇的なストーリー展開がここから生まれたのかと思うと感慨深いものがあります。
これだけを見れば、さぞドロドロした内容の小説だろうと思われるかもしれませんが、そんな中でも主人公の陽子は自身も複雑な出生の秘密を抱えながらも、真実な生き方を求めて一直線に成長していくので読んでいてかえって清々しい印象を受けます。氷点は登場人物たちの俗にまみれた営みと、そこから生じる人の心の闇、それに反して頑なに真実を求めて生きる主人公がやがて周囲を巻き込みながら浄化していく様子が描かれています。そのようなストーリーが醸し出すコントラストの深さが、この三浦綾子初期の傑作の最大の魅力なのかもしれません。
小さな企画展でしたが、三浦文学ファンのぼくとしては見応えがあって得るものも多かったです。文学館を後にして、中島公園を横切り電車通りに出て市電に乗って次の目的地、市電祭り会場の電車事業所へ向かいました。
(PS:)
どんな人でも自分の在り方や人間関係の不可解さなどに一度や二度、悩むことはけっして珍しくないことだと思います。そんなときに自分の限られた視野だけでそういった不可解さを見極めようと格闘してかえって悩みを深める結果になったり、それを誰かに打ち明けてみても理解が得られなかったことも多いのではないかと思います。また、自分自身の内に秘めた葛藤をどうにかして昇華しようと試みても、対象化できる存在を見つけられずに悶々としたまま過ごしている人も多いのではないかと思います。そういった精神的に息苦しさを感じがちな時こそ、三浦綾子さんの作品に一度触れてみることをお勧めします。今、自分が直面している課題に向かっていこうとする意思と、そこから目をそらさない勇気を持って読み進めれば、きっと何か力になるものを得られると思います。
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1982/05/07
職業:
エア作家/にわか写真家
趣味:
鉄道と写真ともろもろ・・・
自己紹介:
バセドウ病罹患者(勝手に寛解中)。
発病から10年以上経ちましたがようやく沈静化へ向かいつつある今日この頃。同時に人生の在り方を模索し続け小説という創作物に結晶化することを日々の生業とする。写真撮影は豊かな創造性とニュアンスの源泉です。
写真撮影の友:PENTAX K10Dと愉快なオールドレンズたち。
コンパクトはRICOH GX-8、R10、ケータイカメラCA006
フィルムカメラはPENTAX SPF、RICOH R1s、GR1s
「目指す場所があるからいつだって頑張れる!」
発病から10年以上経ちましたがようやく沈静化へ向かいつつある今日この頃。同時に人生の在り方を模索し続け小説という創作物に結晶化することを日々の生業とする。写真撮影は豊かな創造性とニュアンスの源泉です。
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